王は朝鮮王朝において絶大な権力を持つ。しかし、歴代の王にとって悩みの種だったのが、地方の役人たちの不正だった。悪徳役人が監視の目を盗んで私利私欲のために庶民の生活を圧迫することがよくあった。そうした悪徳役人を摘発するために作られた警察官の役職が暗行御史(アメンオサ)だった。
「暗行御史、出頭!」
暗行御史に任命された者には、王の代理の証明として三種の神器が手渡された。暗行御史の公務が書かれた事目(サモク)、死体を検分する時に使うものさしである鍮尺(ユチョク)、駅(地方ごとに置かれた中継所)で馬を自由に借りるときに使う馬牌(マペ)の三つだ。これらは、暗行御史が王の代理であるということを証明する身分証の代わりになった。
様々な特権を与えられた暗行御史は、王の期待に添うために懸命に職務を遂行した。彼らは役人たちの仕事ぶりを確認するために、粗末な服をまとって物乞いに変装することもあった。
暗行御史は役人の不正を見つけると「暗行御史、出頭!」という大きな掛け声をだして一気に突入する。その声を聞いた庶民は喜びの声をあげたし、不正を働いた役人たちは恐怖におののいた。
数多くの武勇伝を残した暗行御史の中で、ひと際輝く実績を持っていたのが朴文秀(パク・ムンス/1691年~1756年)だ。
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