悪女「張緑水」という生き方!

張緑水(チャン・ノクス)は、とても貧しい家の出身だ。彼女はやがて斉安大君(チェアンデグン)の屋敷で働く奴婢(ぬひ/朝鮮王朝時代の最下層の身分)の妻となった。斉安大君は9代王・成宗(ソンジョン)のいとこであり、高い品階をもっていたので、張緑水は奴婢といえども生活に困窮することはなかったのだが……。





いきなり側室になった

上流階級の生活を間近に見たことで、張緑水の欲望に火がついた。彼女は一介の奴婢で終わるつもりは毛頭なかった。
張緑水は息子を産んだにもかかわらず逃げ出し、歌と踊りを覚えて妓生(キセン/宴席で歌と踊りを披露する女性)になった。すぐに彼女は評判になった。歌がとてもうまくて、くちびるを動かさなくても美しい声を響かせることができた。
その頃の張緑水は30歳を過ぎていたが、10代に間違えられるほど若々しかった。その噂を聞きつけたのが10代王・燕山君(ヨンサングン)だった。
「その女をすぐに呼べ!」
燕山君は張緑水がとても気に入り、彼女を宮中に招き入れた。その身分を考えれば不可能なことなのに、燕山君は張緑水に「淑媛(スグォン)」という従四品の品階を与えた。内命婦(ネミョンブ/日本でいえば大奥のこと)で従四品以上の女性というと、すなわち側室を意味している。




燕山君は宮中の慣例を無視して、いきなり張緑水を側室として遇した。
図に乗った張緑水は、宮中でさまざまな無礼を働いた。
王家の女性たちは「妓生あがりは下品すぎる」と眉をひそめるが、張緑水は「上品ぶっても人間はひとかわむけばみんな下品」とばかりに悟りきった表情で屈託がない。さらに、張緑水をつけあがらせていたのが、宮中で荒れ続ける燕山君だった。
張緑水を寵愛する燕山君は毎晩のように酒宴を開き、酒池肉林を繰り返した。
王の威光を利用して、張緑水も宮中でやりたい放題だった。倉庫の財宝を勝手に自分の部屋に運んだり、王家が抱える金で自分の派手な装身具をつくったりした。側近が止めるのも聞かず、張緑水は国家の富を私物化したのである。
燕山君と張緑水の浪費によって、朝鮮王朝は破産に近い状態となった。すると、燕山君は民衆に高い税金をかけ、高官たちの資産も没収しようとした。王を陰で動かす悪女として、張緑水は民衆や官僚たちから激しい憎悪を浴びるようになった。
彼女は誰の声にも耳を貸さなかった。王と虚飾に溺れた日々を過ごし、それが永遠に続くと錯覚していた。




しかし、暴君の悪政は長く続かなかった。1506年、国を憂えた高官たちがクーデターを起こして、燕山君は王位を追われて流罪となった。正妻だった慎氏(シンシ)は廃妃となり、その他に燕山君の取り巻きたちも処罰された。
張緑水は斬首となり、その遺体はしばらく市中にさらされた。その遺体に向かって多くの民衆が唾を吐いて石を投げたという。暴政のせいで生活が苦しくなった恨みを露骨にぶつけたのである。
死してもここまで憎まれた張緑水。今に至るまで汚名が消えることはなかった。

文=康 熙奉(カン ヒボン)

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