『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』で、主役カップルが演じているキャラクターは特異だ。コン・ユが演じているキム・シンは、900年以上も前の高麗時代の将軍で、王に裏切られて胸に剣が刺さったまま現世をさまよっている。その剣を抜いてもらえれば、彼は苦悩が消えて安らぎの世界に行けるのだが、その剣を抜けるのはトッケビの花嫁だけなのである。そんな女性をずっと探し続けていたキム・シン。ようやく現代の韓国でトッケビの花嫁を見つけた。それは、高校3年生のウンタクだった。そのウンタクを演じているのがキム・ゴウンだ。
ホラー映画より恐ろしい世界
キム・ゴウンといえば、映画『ウンギョ 青い蜜』でセンセーショナルなデビューを飾った女優だ。
いくつかの映画で非常に個性的な役を演じた後、ドラマでは『恋はチーズ・イン・ザ・トラップ』で、パク・ヘジンと不思議なラブストーリーを展開していた。
『シークレット・ガーデン』や『太陽の末裔』で知られる超人気脚本家のキム・ウンスク作家は、『トッケビ』ではコン・ユの主演を切に願い続けていたのだが、ヒロインにキム・ゴウンが選ばれた理由は何なのだろうか。
それは、ドラマを見続けているとよくわかってくる。現世をさまようトッケビに対してその花嫁になる女性には、いかにも現代的な活発さと苦境にも負けないバネの強さが必要だったのだ。
そうでなければ、トッケビの花嫁として死神や幽霊のような人物たちと一緒の生活を送れるわけがない。
とにかく、ウンタクが生きている場所は、ホラー映画より恐ろしい世界なのである。
コン・ユが演じるキム・シン自体が、900年以上も生きているという設定である。それをまともな現代の娘が「はい、そうですか」と受け入れられるわけがない。恐ろしくて足が震えてしまうのが普通だろう。
しかし、ウンタクはキム・シンが様々な願いを叶えてくれる存在だとわかると、「500万ウォンください」と平気でいろいろな要求を出したりする。
これほどバイタリティがあるのは、母親が死んでおばさんの家に預けられて苦労したからだ。ただの高校3年生と思ったら大間違い。
苦難の経験だけなら、どんな女性にも負けないほど様々な修羅場をくぐっている。学校で先生や同級生からいじめられても、それでひるんではいられない。ウンタクは人生に対して前向きだし、大学受験のためにがんばっているし、自分の生活のためにアルバイトもしている。さらには、トッケビの花嫁にまでなってしまった。
これほどキャラクターが明確でゆるぎない設定というのは珍しいほどだが、よほどの演技の裏付けがないと役になりきるのは難しいだろう。そういう理由もあって、演技に定評があるキム・ゴウンがヒロインに選ばれたのだ。
『トッケビ』の中で数々の名場面となっているのが、キム・シンとウンタクがお互いに負けまいとして言い争う場面だ。
ウンタクが攻めに攻めてキム・シンが守勢に回るケースが多いのだが、「ああ言えば、こう言う」という感じのウンタクの速射砲のような言葉の連続は、見ていても歯切れがいい。だからこそ、キム・シンはムキになって言葉で対抗していくのだが、やはりウンタクに勝てる男はいない。
あげくの果てに、「売り言葉に買い言葉」でキム・シンは自分がウンタクの彼氏になりたいということを告白せざるを得なくなって、自分の心の変化にビックリしてしまう。
このあたりの2人の掛け合いは、まさに『トッケビ』の真骨頂である。
謎めいたストーリーや美しい風景や叙情的な場面に心が惹かれるが、やっぱり一番面白いのは漫才のような主役カップルの言い争いだ。
それを演じているコン・ユとキム・ゴウンの演技力には、心から感心してしまう。
構成=「韓流テスギ」編集部