韓国でタクシーに乗ると、驚くことが多い。日本との比較で言うと、まず、料金がとても安かった。感覚では3分の1くらい。値上がりが続いて日本との差は縮まったが、それでも「運転手はどうやって暮らしているんだろ」と心配になるほどで、今でも「安いなあ」と思えるレベルである。
突っ込みどころがたくさん
韓国のタクシーは、街中で相乗りが普通にある。
目的地が近いと、たとえ先客がいても、運転手は平気で他の客を乗せる。それがわかっているから、客のほうもタクシーがつかまりにくい夜の時間帯になると、通行するタクシーに向かって路上で目的地を叫んでいる。運転手のほうも、そんな相乗り客の声を聞き逃すまいと歩道側に注意しながら走っている。
日本ではまったく見られない光景である。
たとえ相乗りでも、料金は自分の分をしっかり取られる。運転手も稼ぎの悪さを相乗りで補っているのかもしれない。
次に、乗客が乗る位置である。日本なら、1人の乗客の場合にかならず後部座席に座るが、韓国では助手席に座る人も多い。
後部座席が空いていて、前に運転手と乗客が並んで座っている。見慣れない様子なので違和感がある。2人が友人同士のように仲良く見えるのは微笑ましいのだが……。
他にも、「後部ドアが自動ドアでないこと」「路上でタクシーを呼びたいときは、日本のように手を上げるのではなく、手を水平から下に差し出すこと」などが日本と違う。
さらに、運転手が出すスピードも、日本よりずっと速くなる。地方の田舎道を飛ばすタクシーには肝を冷やすが……。
ソウル中心部で友人と酒を飲んでホテルに戻るときの話だ。
相乗りのタクシーに乗った。先客は若い男性で助手席にいたので、私は後部座席に座った。
先に目的地に着いたのは先客だった。
「手持ちがないので家から取ってくる」
先客はそう言って、目の前のマンションに入っていった。
すぐに戻ってくると思ったが、5分以上も待たされた。
「ちょっと様子を見てくるから、そこで待っていてください」
運転手はそう言って、マンションの中に入った。
困ったことに、この運転手も戻ってこなくなった。
こちらも酔っていたから気持ちはのんびりしていたが、早くホテルで寝たかったのも事実だった。
そう思って待っていると、運転手が駆け足で戻ってきた。
「あの野郎、逃げやがった。お客さん、悪いけど、降りてくれないか。他のタクシーを探してくれ」
そう言われて、そこまでの料金もしっかり取られた。
そのうえで、運転手は「絶対に逃がさない」と叫びながら、鬼のような形相で再びマンションの中に入っていった。
踏んだり蹴ったり、である。タクシーが通る表通りまで、私はトボトボと歩かなければならなかった。
「日本でなら、待たせた乗客に降りてくれ、とは言わないよなあ」
そう思った。少し腹も立ったが、同時に、運転手に感心する部分もあった。
「絶対に逃がさない」
そう叫んだ運転手の恐ろしい形相を何度も思い出した。あの執念は、淡白な感情では韓国で生きづらいことを如実に示していた。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)