妻の機転のおかげ
燕山君の場合は完全に人心が離れていたので、クーデター軍が王宮に入っていくと、警護の者たちがみんな逃げてしまった。中には、あわてて逃げて便所に落ちた人までいると「朝鮮王朝実録」に書いてある。
クーデターはあっけなく成功した。
ただし、いくらひどい王でも、クーデターで王を追放するとなると、よほどの大義名分が必要になる。
朴元宗たちが頼ったのが、燕山君の異母弟である晋城(チンソン)大君だ。
自邸にいた彼は、兄の燕山君に相当いじめられていたこともあって、クーデター軍が迎えに来たときに「兄が自分を殺しに来た」と勘違いした。
完全な早とちりなのだが、晋城大君は恐怖で自決しようとした。それを必死に止めたのが妻だった。そのおかげで晋城大君は命拾いをしたわけだが、クーデター軍に擁立されたあとも、「兄を退けて王になると、後世でどれだけ非難されるかわからない」と何度も尻込みした。
結局は説得させられて王になった。
それが11代王の中宗(チュンジョン)である。
(第6回に続く)
文=康 熙奉(カン ヒボン)