書の才能に恵まれた王女
永昌大君を失って悲嘆に暮れた仁穆王后。娘までも失うわけにはいかなかった。
「娘のためにも生きなければ……」
仁穆王后は苦難の生活の中で、何よりも貞明公主のことだけを考えていた。
そんな仁穆王后にとってわずかな救いとなったのは、貞明公主が書を愛していたことだった。
実は、14代王・宣祖(ソンジョ)と仁穆王后は、優れた書をしたためることでともに評価が高かった。その2人の血を受け継いだ貞明公主。書の才能が抜きんでていた。
生活が苦しく日用品が不足していたのだが、その中でも貞明公主は何とかやりくりして紙と墨を用意し、長い時間、書と向き合った。
それは、母である仁穆王后をなぐさめるという目的もあった。
仁穆王后は娘の貞明公主が筆を取っている姿を見るのが大好きだった。そのことを貞明公主はよく知っていたので、母を喜ばせたい一心で書の時間を増やしていた。
才能があるだけに、貞明公主はすばらしい書を残している。
「華政」
それが、貞明公主の有名な書の文字である。
「華やかな政治」という意味だ。ドラマ『華政』も、この文字をタイトルにしているのである。
彼女は幽閉中でも、決して人生を諦めなかった。普通の公主であれば、10代の前半で名家の御曹司と結婚するのが常だったが、貞明公主はそんな境遇ではなかった。結婚どころか、いつ光海君が刺客を送ってくるともかぎらなかったのだ。
そんな苦しい境遇の中でも、貞明公主は希望を捨てなかった。
「華政を実現できるときがきっと来る」
そんな思いで、苦しい監禁生活に耐えたのである。
(第4回に続く)
文=康 熙奉(カン ヒボン)