説得力がある演技
キム・ナムギルがガンスを演じると、どこか許せてしまう。それは彼の端正な顔だちがかもし出す柔軟性が、見ている人の許容範囲を広げるからかもしれない。
「ナムギルが演じているなら、しょうがない」
そう思わせる説得力がキム・ナムギルの演技にはあった。
そんなふうに淡々とガンスの日常が描かれていると、映画は一転して状況設定が変化していく。交通事故で昏睡状態に陥っていた女性ミソ(チョン・ウヒ)との出会いがガンスを一変させるのだ。
この場合の「出会い」は奇想天外だ。ガンスにまとわりついてきたのは、意識不明のままベッドに横たわっているはずのミソなのだ。その女性が、昏睡状態の自分の姿をそのままにしながら、事故前の「もう1人のミソ」としてガンスの前に現れて、様々な頼みごとをしていく。
当然ながら、ガンスは「もう1人のミソ」を信じない。ありえない存在なのだ。しかし、その存在を自分の意識の中ではっきりと認めた段階で、ガンスは確実に変わっていく。その際の変貌をキム・ナムギルは見事に演じ分けていた。
韓国の俳優が一番心掛けているのは、「多様な性格を持ったキャラクターをいかに自然に演じ分けていくか」ということだ。
これは、とても難しい命題だ。なぜなら、自分とまったく違う人間を演じるには、的確な演技力と果てしない想像力が必要だからだ。
その点で、ガンスに扮したキム・ナムギルの場合はどうだっただろうか。
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