『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん』が韓国で放送を開始したのは、2018年3月だった。それから歳月が流れたのだが、いまだに多くの視聴者を新たに獲得している。それほどの傑作だったのだ。
視聴者にこびない
『マイ・ディア・ミスター』というドラマは、序盤はとても重く苦しい展開が続く。IUが演じるジアンは、父が残した借金に苦しめられてどん底の生活を強いられていく。
そして、構造エンジニアのドンフン(イ・ソンギュン)は、左遷させられて社内で冷たい目で見られていた。
そんな二人の様子が、最初から救いようがない形で描かれていく。見る側も、いたたまれない気分になったりする。そんなこともあり、せっかく見始めたのに第2話か第3話で見るのをやめてしまったという人も意外と多い。
その心情はよくわかる。辛いことが多い世相の中で「できればもっと明るいドラマを!」という気持ちになる人が多いのも仕方がないことだ。
最近のドラマは、序盤に派手なシーンを連続的に組み込んで視聴者の関心を呼び込もうという仕掛けをよく出してくる。しかし、『マイ・ディア・ミスター』はそういう配慮がまったくない。あくまでも、視聴者にこびないで制作側が自分たちの好きなように作っている。その徹底ぶりは見事である。
かくして、ドラマはジアンとドンフンの苦しい境遇を延々と描いていく。しかし、そこからドラマが急に動いていく。
『マイ・ディア・ミスター』は、序盤から中盤に移っていくと、数々のエピソードが有機的にからみあって、展開がとても面白くなる。
加えて、ドンフンの兄弟たち(三兄弟なのである)や町内の仲間や居酒屋がどんどん登場してきて、一転して活気あるストーリーになっていく。
そんな展開には二つの軸がある。
一つはドンフンの会社の社内抗争だ。社長派と専務派が激しく対立して、ドンフンも抗争に巻き込まれていくのだが、このあたりはスリリングな戦いになっていく。
もう一つの軸は、ドンフンを囲む仲間たちの人間ドラマだ。なじみの居酒屋で展開されるドンフンと兄弟・友人たちの交流は、見ていても本当に羨ましくなるほどに楽しいし、友情や郷土愛を感じる。
さらには、ジアンとドンフンの関係性も緊迫感をともなってくる。その中でも、苦境にあった二人がお互いに惹かれ合いながら生き返っていくところがとても興味深かった。
こうして『マイ・ディア・ミスター』は最高の脚本と創造性豊かな演出と卓越した俳優陣が見事に融合して傑作の中の傑作となった。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
マイ・ディア・ミスター感服特集「第1回/いかにも韓国らしい作品」